【談話】地方自治法の一部を改正する法律案の衆議院通過にあたって《党本部ニュースより》

地方自治法の一部を改正する法律案の衆議院通過にあたって

立憲民主党「次の内閣」ネクスト総務大臣 野田国義

 第33次地方制度調査会の答申に基づく地方自治法の一部を改正する法律案が、本日の衆議院本会議で与党などの賛成多数で可決し、衆議院を通過しました。

 改正案には、DX化の進展を踏まえた情報システムの適正利用、公金収納事務のデジタル化、また地域における生活サービス提供体制強化にむけた多様な主体との連携強化に関する規定などが含まれています。とりわけ、最大の焦点となったのは、大規模な災害、感染症のまん延その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」における国と地方公共団体との関係等の特例の創設です。

 今回の改正案は、「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」において、国は、事務処理について国民の生命等の保護を的確かつ迅速に実施するため講ずべき措置に関し、自治体に対し必要な指示ができるとして、いわゆる補充的指示権を盛り込むとともに、国民の生命等の保護を理由に、都道府県の事務処理と規模等に応じて市町村が処理する事務の処理との調整のための指示や、自治体相互間の応援に関する国の要求・指示、職員派遣に関するあっせんを可能にしています。

 「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」という「想定していない事態」をあえて想定し、地方自治法で定めている自治体に対する国の関与の原則とは別に、新たな章まで設けて特例を規定するような立法事実があるのかということについては、大いに疑問があります。

 政府は、コロナ禍において、国がダイヤモンド・プリンセス号事案に対応した際、患者の広域的移送が感染法上想定されていなかったこと、また保健所設置市区の区域を超えて国が行った病床配分についても感染法上想定されていなかったことなどを必要性として持ち出していますが、コロナ禍についての実証的な分析、検証は行われていません。しかも現在、災害対策基本法、感染症法、新型コロナ特措法など個別法で国の指示権が定められており、これらの規定で十分対応が可能であり、必要であればさらなる個別法の改正で対処すべきです。

 2000年の地方分権改革一括法により、国と地方は、「上下・主従」から「対等・協力」の関係となり、「機関委任事務制度」も廃止されました。自治体に対する国の関与の原則も法定化され、必要な最小限度のものとするとともに、自治体の自主性及び自立性に配慮しなければならないとされました。違法な事務処理をした等の場合、「是正の指示」ができるのは法定受託事務のみで、自治事務については「是正の要求」までしかできないとされ、個別法に基づく「指示」もあくまでも極めて抑制的に例外的なものとして可能としているにすぎません。

 今回の補充的指示権などの特例によって、国は自治体の自治事務の処理に対し、個別法の根拠規定なしに、違法等でなく緊急でない場合でも指示権の行使が可能になります。このことは、地方分権改革の成果を無にして「上下・主従」の時代へと分権への流れを逆行させるとともに、憲法の保障する地方自治の本旨をも損ないかねない問題です。

 地方制度調査会の専門小委員会では、「非平時」として、自然災害、感染症、武力攻撃の3類型が議論されていました。「想定していない事態」とはどういう事態なのかをただしたところ、特定の事態を排除しないとしながら、武力攻撃事態では、必要な規定を設けているから補充的指示権は想定していないとする一方で、大規模災害や感染症では、「想定していない事態」に対処するため補充的指示権が必要だとしているのも大きな矛盾です。武力攻撃事態対処法制で「想定していない事態」に対応できるというのであれば、大規模災害や感染症について必要な個別法改正で対応できるはずです。

 補充的指示権の要件や範囲も不明確で、「おそれがある」などの判断はすべて各大臣に一任されています。事前の自治体との協議・調整の義務はなく、意見聴取も努力義務にとどまっており、実効性が担保されていません。事前報告や事前承認など国会の関与もないなど、閣議決定のみで発動可能となっています。時の内閣の恣意的な判断で自治体に指示を行う余地を残すものであり、乱用が懸念されます。

 本来、大規模災害や感染症等への対処においては、自治体と国が連携、協力することこそ大事であるにもかかわらず、補充的指示権、調整に関する指示、応援の指示のいずれも、国がいつも正しいとの前提で、国の一方的指示に従う義務を自治体に課すものであり、自治体側の主体性や自発性をも損い、現場の的確な判断や対処を妨げかねないことも懸念されます。

 また、地域の多様な主体の連携及び協働を推進するための「指定地域活動団体」について、議会の関与がうすいままであり、首長の恣意的な判断で随意契約、行政財産の貸付が行われる等首長との癒着が懸念されるものとなっています。

 立憲民主党は、今回の改正に対し憂慮する首長や有識者、関係労働組合、また立憲民主党自治体議員ネットワークや政令指定都市政策連絡会等との連携を強化し、最低限、指示権行使を極めて限定的にするため、(1)国の地方への「関与の原則」の維持(2)自治体との事前協議・調整の義務化(3)国会の関与と事後検証の義務化――という3点を柱にした修正を要求しましたが、受け入れられなかったことから、本改正案には反対しました。今後、参議院に審議の舞台が移りますが、懸念を払拭できるよう改正案の問題点を徹底的に追及します。

 地方分権推進決議から30年余、地方分権一括法から四半世紀となりますが、国から地方への税財源の移譲を含め分権改革は道半ばです。立憲民主党は、真の地方自治の確立をめざし、地方分権・地域主権改革の推進に全力で取り組む決意です。

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